伊豆の旅
  くつろぎの里“石ばし庵”にて
東京都北区
 草島裕子
2003.6
“ホタルの森”ー“池”の里ー
そのとき私は、ほそ〜い蜘蛛の糸のような暗闇が身体じゅうに纏わりついているようで、身動きすらできず、その漆黒の世界に立ちすくんでいました。

漆黒の闇・・・この日本語を私は生まれて初めて“体感”しました。
都会育ちの私は、放漫にも、何も見えない暗さがあるなんて、考えたこともありませんでした。脇にいるはずの人がその気配すらもわからない・・・・たった一人の空間に漂っているみたいな・・・何か得たいの知れない緊迫感が私のまわりを被ていました。

自然の中で自生した“ホンモノ”ホタルをみせてもらえる!と胸をわくわくさせて、つれて来てもらった森の中の道は、懐中電灯の明かりが途絶えると、どんなに目を凝らしても何一つ見えない“くらやみ”でした。
暗さになれて、シィーッと息をこらしていると、かすかな光が目の前にツウーイ・ツウーイと飛び交じっているのがみえてきました。

 「あっ蛍・・・」

小さなそれでもしっかりした“光のしずく”が無数に飛び交い、光の乱舞が目の中に飛び込んできました。川音だけしか聞こえないはずなのに、蛍たちはツウィー・ツウィーと、あちらでもこちらでも、まるで囁きあっているように光っていました。ほかーほかーと光をかわす、その“ま”がゆったりとした不思議な“刻”(とき)と空間を思わせ、森からただよってくるヒィーンヤリとした冷気につつまれて私たちは幻想の世界にいました。

森の入り口に戻ってくると、そこは広々とした田圃、辺り一面が、がっこ、げっこ、がっこ、げっこと蛙の合唱のお出迎えでした。
「緑が、この暗さの黒になる」と庵主さんから教えられ、あらためて墨絵のような山里の風景が一幅の山水画のようにみえました。

初めて自然に深く接した思いをいだかせてもらった素晴らしい一夜でした。
また、きます! ありがとうございました。